仙台高等裁判所 昭和30年(う)369号 判決
所論原判示第三の別表記載5の事実が唐橋重政と共謀である点、同別表記載3及び7の事実が被告人の単独犯である点は、原判決挙示の証拠によりこれを肯認するに足り、記録に徴しても原判決の右事実認定に誤りがあることは認められない。尤も、右唐橋重政は、原判決挙示の証拠によれば、総括主宰者であることが明かであり、被告人は身分により刑が加重される総括主宰者(公職選挙法第二百二十一条第三項)たる唐橋に加功したこととなるが、刑法第六十五条第二項の「通常ノ刑ヲ科ス」とは一応身分ある者の犯罪が成立して刑だけを通常の例によるという意味ではなく、はじめから通常の犯罪が成立する意味と解するから、総括主宰者唐橋重政を単に唐橋重政としたことは構成要件的評価に影響しないものというべきである。しかし、原判決が被告人の単独犯と認めている同別表記載1、2及び6の各供与の事実(5のみは唐橋重政と共謀と特に判示しているのであり、その分についてのみ特に刑法第六十条を適用しているのであるから、それ以外は単独犯と認めたものとみざるを得ない)は、原判決挙示の証拠によれば、原判決がその法律理由欄において説明する如く、昭和三十年四月十九日附起訴状別紙一覧表記載1及び4において被告人が佐藤吉郎から供与を受けたものとして起訴された八万円及び五万円は受供与でなく、他の選挙運動者に対する報酬及び費用として出納責任者佐藤吉郎から交付を受けたもので、かつ被告人は右八万円中二万四千円については即日右原判示第三の別表記載1、2の計二万四千円として、右五万円については同別表記載6の五万円としてそれぞれ受交付の趣旨に従つて他の選挙運動者に供与したものであることが認められる。ところで、公職選挙法第二百二十一条第一項第一号ないし第三号の行為をなさしめる目的を以て選挙運動者に対し金品を交付し選挙運動者がその交付を受けた場合、選挙運動者がその金品を所期の如く供与しないでしまつたときは、右両人間の金品の授受は同条項第五号の交付罪又は受交付罪を構成するものであるが、所期の如く供与したときは、右両人は右供与の共同正犯となり、交付罪又は受交付罪は供与罪に吸収されて独立の存在を失うことになるものと解すべきである。されば、本件において、結局右各供与は出納責任者佐藤吉郎と共謀の上なしたものとなるわけである。そして、共犯を単独犯と認定することは通常は構成要件的評価に影響しないであろうが、本件の場合は、原判示の如くこれを単独犯と認定すれば、少くとも事実説示のみからは起訴八万円の受供与中二万四千円につき及び起訴五万円の受供与につき何等の判断を示していないものといわざるを得なくなる。されば、この意味において、原判決がその挙示する証拠によれば共犯であるものを単独犯としたのは判決に影響を及ぼすものであり、結局原判決には理由のくいちがいがあるものというべきである。そして原判決は右事実と原判示その余の事実とを併合罪として一個の刑を科しているのであるから、原判決は全部破棄を免れない。論旨は結局理由あるに帰する。
次に、職権を以て調査するに、原判決は原判示第一の(一)の佐藤吉郎からの五万六千円の受交付、及び原判示第三の別表記載1の小寺与八に対する四千円、2の三瓶一雄に対する二万円の各供与を、刑法第四十五条前段の併合罪として処断している。しかし、既に前段で説明し、原判決も認めている如く、右は被告人が原判示二月三日原判示選挙事務所で佐藤吉郎から八万円の交付を受けた上、即日同所で内四千円を小寺に内二万円を三瓶に各供与した事実関係にあるのであつて、前記五万六千円の受交付は交付を受けた八万円中右二万四千円を供与した残額であり、二万四千円の受交付は四千円、二万円の各共謀供与中に吸収されて別罪を構成しないのであるから、結局前記三者は包括して観察しこれを一罪とみるのを相当とする。されば、原判決は法律の解釈適用を誤つたもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから、この点においても原判決は破棄を免れない。
そこで、弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断は後記自判の際示されるのでここに省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第四号第三百八十条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所において更に次のとおり判決することとする。
(罪となるべき事実及び証拠の標目)
当裁判所の認定した事実は、原判示事実中原判示第三の別表記載1、2及び6につきその備考欄に各「出納責任者佐藤吉郎と共謀」と附加し、同5の備考欄の「唐橋重政と共謀」とあるのを「総括主宰者唐橋重政と共謀」と訂正するほか、すべて原判決摘示の事実と同じであり、また、証拠関係はすべて原判決摘録の証拠と同じであるから、いずれもこれを引用する。
(法令の適用)
被告人の判示所為中、第一の所為は各公職選挙法第二百二十一条第一項第五号に、第二の所為は各同条第一項第四号に、第三の所為は各同法条第一項第一号(ただし、別表記載1、2、5及び6については刑法第六十五条第二項をも適用)に該当するところ、前段説明の次第で第一の(一)と第三の別表記載1、2は包括して一罪とみるべく、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、所定刑中いずれも懲役刑を選択の上、同法第四十七条第十条により犯情の最も重いと認める判示第三の別表記載6の罪の刑に併合罪の加重を施した刑期範囲内で、被告人を懲役八月に処し、諸般の情状により同法第二十五条第一項を適用して、本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予すべく、被告人の交付を受けた判示第一の(一)の五万六千円は選挙関係に費消されたものでないことが明かでかつ没収することができないから、公職選挙法第二百二十四条後段に則りその価額を被告人から追徴することとし、なお原審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)